診療の流れ

てんかんの診療は、問診で患者さんやご家族から発作の症状を聴くことから始まります。多くのてんかん診療に携わっている医師であればこの段階で、てんかんなのか違うのか、どの分類のてんかんなのかがピンと来ますが、そうでない場合、てんかんの診断に結びつかないことも多くあります。また、てんかんと誤診されて不要の薬を何年も飲み続けている患者さんもいらっしゃいます。てんかんの診断・治療では、コントロール不良の場合、早期にてんかん専門医の診療を受けることが大事です。

てんかん診療は日々アップデートされています。以前は手術不能と言われていても現在では手術できることもあります。また、治療方針は医師によっても大きく異なります。通院治療をされていても発作が止まらない方は、ぜひ一度当院の外来でご相談ください。当院てんかんセンターでは、患者さんの発作消失・軽減のために、最後まで諦めることなくチーム一丸となって全力を尽くします。

抗てんかん薬にてコントロールが不良の場合は、てんかん外科治療を考慮します。焦点てんかんの診断から手術に至るまでは、一般的に以下の段階を追って進められます。患者さんによって、不要な検査をスキップしたり検査の順番が前後したりすることがあります。

01問診

02MRI・脳波

03長時間ビデオ脳波検査

04神経心理検査

05SPECT・PET・脳磁図

06和田テスト・機能的MRI

07頭蓋内電極留置術

08頭蓋内長時間ビデオ脳波検査

09焦点切除術・離断術

問診

医師が発作症状について問診します。発作症状はてんかん診療において非常に重要です。発作の時の手足や目の様子、意識の状態、持続時間、発作後の様子、発作頻度などを聴取します。

MRI・脳波

てんかんの診断の確定をするため、外来でMRI検査や脳波検査を行います。
MRI検査では、脳の構造上の異常を調べます。
脳波検査では、てんかん性異常波を確認します。浅い睡眠の時にてんかんの異常波が出やすいため、睡眠不足の状態で来院し検査時に眠っていただくことが望ましいです。開閉眼、光刺激、過呼吸賦活を実施します。検査時間は30分程度です。 ボーッとする発作が側頭葉てんかんなのか、全般てんかんの欠神発作なのかを、この脳波検査で鑑別できることも多くあります。しかし、てんかんであれば必ずしも異常波が出るとは限りません。

MRI画像の一例(右海馬萎縮)
頭皮脳波の一例(右側頭葉てんかん)

長時間ビデオ脳波検査

頭皮脳波とビデオを2〜7日間同時記録して、発作時の脳波と発作症状を解析します。てんかんの焦点を調べるためには極めて有用な検査です。この結果をもとにおよその発作焦点を推測し、てんかん分類や手術適応の可否を判断します。この段階でいかに発作焦点の狙いを定めるかが重要なポイントとなります。
脳波電極は、コロジオンという接着剤で固定されます(乳幼児はテープ固定)。記録中は本を読んだりテレビを観たりして過ごせます。携帯電話の使用も可能です。

長時間ビデオ脳波専用の個室
長時間ビデオ脳波の一例(左後側頭部起始発作)

神経心理検査

てんかんの高次脳機能への影響を調べ、またてんかん焦点の推定にも役立ちます。知能検査、記憶検査などがあります。術後の後遺症の予測や回避、手術適応、方針の決定においても重要な検査の一つです。

SPECT・PET・脳磁図

てんかん焦点を推定するため、SPECT、PETの検査を行います。MRI上で異常があまり明瞭でない場合でも、SPECT、PETで発作焦点が推定できることがあります。脳磁図は、脳の電気活動が作り出す磁界の変化を記録する検査で、脳波で検出できない異常が捉えられることがあります。脳磁図については当院では実施しておりませんので、必要時には他施設にて検査していただくよう手配いたします。

IMZ-SPECTの一例(右頭頂葉皮質形成異常)
 PETの一例(右頭頂葉皮質形成異常)

和田テスト・機能的MRI

てんかん外科の術前検査として、言語優位半球を調べる検査です。足の付け根からカテーテルを挿入して、左右の脳それぞれを麻酔薬で眠らせ、言語機能が左右どちらの脳が優位かを調べます。言語優位半球の焦点切除術では言語の後遺症が出現するリスクがあるため、慎重に手術戦略を立てる必要があります。機能的MRIでも言語優位半球を同定しますが、和田テストに比べて感度が劣ります。

機能的MRIの一例(言語優位半球:左)

頭蓋内電極留置術

手術適応となった場合、ここまでの検査で推定した発作焦点部位あたりの脳の上に直接、頭蓋内電極を留置して数日間記録します。脳波所見と脳画像所見が明らかに合致する場合にはスキップすることもあります。

頭蓋内電極(日本光電ホームページより)
頭蓋内電極のシミュレーション画像

頭蓋内長時間ビデオ脳波検査

頭蓋内に留置した電極を脳波計に繋いで、頭蓋内脳波を記録します。脳活動を直接記録するので、頭皮脳波よりもさらに詳細な発作焦点を調べることができます。発作時の脳波を解析し、詳細な発作焦点部位を同定します。発作焦点が脳の機能の場所に近い場合は、脳機能マッピングを行い、後遺症ができるだけ出ないように切除範囲を決めます。

頭蓋内脳波の一例

焦点切除術・離断術

留置した電極を抜去し、同定した発作焦点部位を切除します。発作焦点が機能野と重なる場合には、覚醒下手術を行うことがあります。また軟膜下多切術(MST)を行うこともあります。発作焦点が広範囲もしくは多焦点で切除ができない場合は、発作の伝達を断ち切るために半球離断術、前頭葉離断術、側頭頭頂後頭離断術などを行います。

手術室
手術の様子